情報資源概論 第1課題
<第1設題 選書における代表的な理論について説明しなさい>
はじめに
図書館は、各館の収集方針に基づき図書を選び、収集している。このときに考えなければならない図書選択論について示し、日本ではどのような経緯でそれらの選択論が支持されてきたのかを以下にまとめる。
①価値論と要求論
カーノフスキーは、2つの図書選択論を「価値論」「要求論」とした。
・価値論
図書自体の価値を基準とし、価値の高い図書を選択していこうという考え方。
・要求論
利用者の要求を基準とし、要求の高い図書を選択していこうとする考え方。
②戦前の日本の図書選択論
戦前の日本の公共図書館は、国民教化の手段として存在し、国は健全有益な図書を選択することを図書館に求めた。国の政策にプラスになるような価値のある本を収集し、国民に読ませた。価値論一辺倒の時代であった。
③戦後の日本の図書選択論
戦後も図書選択論の基本は「良書」を選ぶことであったが、1970年の「市民の図書館」の指針で、住民の資料要求に応えようとする図書選択論、すなわち要求論が提示された。しかし、要求に応える図書選択は、質の低い図書を選択することではないかという批判が現れるようになった。
④前川恒雄氏の図書選択論
日野市立図書館長を務めた前川恒雄氏は、利用者が質の低いものばかりを要求するのではないかという要求論への批判の応えるような図書選択論を展開した。それは利用者の要求に応える図書選択とは、利用者の知的向上心を刺激する図書選択であり、それは質の高さを求める図書選択と同じことになるという、要求論と価値論の統一をめざす選択論である。前川氏は、「質の高い本」を①読者が何かを発見するような本②具体的で正確な本③美しい本とし、このような本を図書館員が選び、それらの本に刺激を受けた利用者が他の新たな本をリクエストし、図書館員がまた質の高い本を選ぶというサイクルで形成される蔵書を優れた蔵書であるとした。図書館員と利用者による共同作業によって、要求論と価値論は統一されるという考え方を示した。
⑤読書調査研究グループの研究成果
1980年以降、「日本図書館研究会読書調査グループ」も、要求論の立場に立ち、図書選択論に関する研究を行った。利用者の資料要求を知り、蔵書構成に反映させるためである。利用状況をコンピュータで分析し、蔵書構成に反映させることと、予約制度を高く評価し、利用者の利用とリクエストを敏感に受け止めるという前川氏の理論を実証的に深める研究成果を発表した。
⑥現在の状況
1980年代以降の図書選択論は、前川氏の理論と、読書調査研究グループの理論を基礎としながら発展していった。
一方で2000年代になると、出版社などから、人気のある本を図書館が貸出をすることで出版界が経済的損失を受けているとの主張がされた。文化的価値、永続的価値のある本を購入するという図書館の社会的役割を放棄しているという。これを受け、新刊書や廉価本の貸出を控える図書館が現れた。このような主張は、古いタイプの価値論への傾斜がみられる。
おわりに
日本の図書選択論は、価値論の時代から要求論の時代へ移り、そして前川氏の「価値論と要求論の統一」という理論の上に発展していった。しかし一部で出版社などの批判から人気本の貸出を控える現象があり、このような主張にどのように対応していくかは今後の課題である。
参考文献:前川恒雄・石井敦「新版 図書館の発見」NHKブックス 2006年
2017年8月提出、2018年3月返却
<評価A>
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