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情報資源概論 第2課題

<第2設題 資料収集と定期用に関する具体的事件を取り上げ、図書館の自由の視点から問題点を解説しなさい>

 

 はじめに

 「図書館用語集三訂版」によれば、「図書館の自由」とは、「市民の知的自由を守るために、図書館または専門職としての図書館員が有しているとされる自由のことで、図書館活動における最も基本的な理念と考えられている」と定義されている。図書館の自由は、図書館員の自由ではなく、すべての市民の「知る自由」の保障を意味している。しかし時に、一部の図書館員による市民の「知る自由」を侵害するような事件が起きている。戦後の資料収集と提供に関する事件を幾つか挙げ、問題点をまとめる。

①「図書館の自由に関する宣言(自由宣言)」の成立

 1954年、「自由宣言」は戦前の思想善導の機関として存在した図書館の歴史に対する反省や、朝鮮戦争などによる戦後民主主義後退への危機感から、国家権力からの自由を希求して採択された。資料収集の自由、資料提供の自由などが宣言された。

山口県立図書館図書抜き取り放置事件

 1973年、山口県立図書館で、図書館員が反戦・左翼出版物などの蔵書約50冊を抜き取り、隠匿した。図書館員が個人的な判断で抜き出したことは、「知る自由」を保障した「自由宣言」の理念を無視した形となった。「知る自由」を侵害した行為は、戦前の師思想善導に基づく言論抑圧の体質と同じであり、図書館界は看過できなかった。この事件を契機に、法的拘束力のない「自由宣言」の改定の動きが始まった。

③「自由宣言」改訂

 抜き取り事件後、「自由宣言」は「知る自由」の法的根拠を憲法第21条で保障する「表現の自由」においた。

船橋市西図書館蔵書廃棄事件

 「自由宣言」改訂後も、同様の事件は起こった。2001年、船橋市西図書館で「新しい歴史教科書をつくる会」の関係者の著作物に嫌悪を抱いた図書館員が、正規の除籍手順を踏まず関連図書107点を廃棄し、関係者から国家賠償を求めて訴えられた。「知る自由」の抑圧に図書館員が関わったことは、裁判所から厳しく糾弾された。これは、国民の「知る自由」の保障に資する公的な場として公立図書館を憲法上位置付けたものである。

⑤「ちびくろさんぼ」「完全自殺マニュアル

 1988年、絵本「ちびくろさんぼ」が、ある政治家の人種差別発言から「差別本」とされ、絶版になった。図書館での取り扱いの判断は廃棄処分、提供制限、そのまま配架に分かれた。

 1993年、「完全自殺マニュアル」を読んだ少年が自殺したことから、有害図書に指定された。このときも、図書館の対応は書庫への異動、利用年齢制限、除籍に分かれた。

 このような事例は、図書館員が「図書館の自由」の実現に完全に応えられていないことを意味している。「図書館の自由」は「図書館員の自由」ではないが、問題のある資料に直面すると、専門職としての主体的判断よりも先に、安易に職制判断や慣習にならってしまう傾向がある。市民の「知る自由」すなわち読書要求が充分に叶えられているわけではないのが現状である。

 おわりに

 「図書館の自由に関する宣言」以降、図書館は国民の「知る自由」を保障するために、読みたい本(資料)を収集、提供することに努めている。しかし、一部の図書館員の個人的な判断で資料を廃棄するなどして、国民の「知る自由」を脅かす事件が度々発生している。基本的人権の一つである「知る自由」を持つということは、国民主権の大事な要素であり、そのために資料と施設を提供することは、図書館の最も重要な任務であるということを忘れてはならない。

 

参考文献:前川恒雄・石井敦「新版図書館の発見」NHKブックス 2006年

     塩見昇「図書館概論四訂版」日本図書館協会 2016年

 

2017年8月提出、2018年3月返却

 

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